ちのっぷすの読書覚書

『!』と思った文章や琴線に触れた言葉のメモ集

死の同心円

ようやく・・・

父の被爆体験記の裏付けと引用文のために、被爆医師秋月辰一郎先生の《死の同心円》を近場の図書館で検索していたのですが、

ようやく武雄図書館で借りることができました。

糸島市図書館にも福岡市総合図書館(分館含め)にも置いてなく、さすがに県立にはありましたが、それよりは武雄の方が行きやすいので、武雄へ行ったのです。

郷土史コーナーに置いてあり、初版本ではなく2010年版。

死の同心円―長崎被爆医師の記録 (長崎文献社名著復刻シリーズ 2)

死の同心円―長崎被爆医師の記録 (長崎文献社名著復刻シリーズ 2)

  • 作者:秋月 辰一郎
  • 出版社/メーカー: 長崎文献社
  • 発売日: 2010/07
  • メディア: 単行本
 

下の画像はその初版本ですが、アマゾンでは中古でしか扱ってなく、7900円もの高値がついていました。

死の同心円―長崎被爆医師の記録 (1972年)

死の同心円―長崎被爆医師の記録 (1972年)

  • 作者:秋月 辰一郎
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 1972
  • メディア:
 

実家にも同じものがあったのですが(子どもの頃、少しだけ読んだ記憶があります。表紙はよく覚えています。)父が数年前、被爆者代表のひとりとしてピースボートに乗船した際、知人に譲ったのだそうです。

引用文は一字一句正確に引かないといけないので、これで作業のひとつはクリア。

ただ、父の今回の被爆記は、ピースボート時に執筆していたものに加筆、修正を加えたものなので、引用は当然初版本から、半世紀近くも前の本ですから、言い回しとか仮名遣いとか微妙に違っているかもしれません。

でも検証のしようがないので、引用文献は、2010年版と明記する予定です。

ちなみに父の引用個所は

「死の同心円だ……。魔の同心円だ」

 長崎市の地図を頭に描きながら、私は思わずそうつぶやかずにはいられなかった。まさに死の同心円が毎日少しずつ広がっていく。きょうはあの線までの人が死んだ。翌日はその家より百メートルうえの人が死ぬだろうと思っていると、はたして的中する。爆心地から広がりはじめた魔の波紋は、日一日と軽傷や無傷の人までを蝕んでいったのである。

「病院まではまだ距離があるが……」

 しだいに広がる円周に恐れおののきながら、私は毎日のように近くの人々をあつめて髪の毛をひっぱった。

「どうだ、まだ髪の毛は抜けないか」

婦長も看護婦も患者も、首を振って不安とも安心ともつかない表情を見せた。当時、私たちはみな、多かれ少なかれ悪心があった。

父も髪の毛を引っ張っていたそうです。当時の父に放射能云々ということはわからなかったでしょうが、経験的に「髪の毛が抜け始めたら、その人は死ぬ」ことがわかっていたからでしょう。