ちのっぷすの読書覚書

『!』と思った文章や琴線に触れた言葉のメモ集

ゾウが教えてくれたこと~ゾウオロジーのすすめ

ゾウについてのオドロキ満載

この本の著者入江尚子さんは、東京大学で動物行動学を学び、卒論の研究対象としてゾウを選んだのだそうです。

あとがきからから一部引用します。

動物心理学を学んでいた私は、まだ誰も研究対象としていない動物で研究できたらと思い、ゾウに出逢いました。ゾウの認知についての論文は、当時は、先にも紹介した1957年に発表されたレンシュによる研究ただひとつしかありませんでした。脳の大きさや社会性など、ゾウについての断片的に書かれている文献を読み漁り、調べれば調べる程、まだヒトの知らない大きな可能性がゾウには秘められているのだと確信して、わくわくしたのを覚えています。

当時大学3年生だった著者のわくわく感還暦の私にもひしひしと伝わってきます。

同時に羨ましさも感じています。若い頃に「これだ!」と思えるコトに出逢えたのですから。

まどみちお「ぞうさん」から始まって、日本人の多くはゾウに対して親近感というか、親愛の情を持っている人が多いのではないかと思います。

小学生の頃、平和教育の一環で絵本「かわいそうなぞう」を読んで涙した人も少なくないでしょう。(私もその一人)

初版1951年ですから、戦後間もない頃です。

もしかしたら私は初版をタイムリーに読んでいたかもしれません。

あるいは8月9日の登校日(長崎では原子爆弾が投下された8月9日が夏休み期間中の登校日でした。広島はもちろん他県では6日だっただろうと思います。近年は登校日自体がなくなっているのかも)に担任の先生から読み聞かせて頂いたのかもしれません。

とにかく自分が読んだ時も、我が子やボランティアで読み聞かせた時も、やっぱり涙なくしては読めない本でした。

土屋由岐雄さんの本について長くなりましたが、この本の画像を貼り付けたのには理由があります。

今、こうしてあらためて表紙を見ると、アジアゾウのお話だったんだと。

それから初版が1951年ということは・・・動物園の飼育員さんたちにはゾウの賢さや愛情深さがわかっていたのに、そういうゾウの行動学や心理学について初の研究論文が世に出たのが1957年というのもショックに近い驚きでした。

生息地の問題もあって、おいそれと研究対象には選びづらかったのでしょうが・・・。

で、入江尚子さんの本に戻ると・・・

私(だけでなく多くの人も?)はゾウにはアフリカゾウアジアゾウの2種類しかいないと思っていたのです。

ところが現生ゾウは3種類アフリカゾウ亜種と考えられていた(とWikipediaにもある)マルミミゾウも、近年別種であることが判明したとか。

とはいえ、マルミミゾウアフリカゾウ属ではありますから、耳が大きくアジアゾウとの違いは一目瞭然です。

耳介がやや丸みを帯びているのでマルミミゾウ

本書では、私たちが普通にアフリカゾウと思っているゾウをサバンナゾウとよび、マルミミゾウとの区別を明確にしています。

サバンナゾウは文字通り、サバンナに生息し、マルミミゾウはサバンナとジャングルの境界に生息しているそうで、雑種が生じたことも過去にはあったとか。(だから「亜種」だったのですね)

それから「マンモスはゾウの祖先ではない」ということも本書で初めて知りました。

「サルはヒトの祖先」と勘違いしている人のことを笑えませんね。

私自身が「マンモスはゾウの祖先」と思っていたのですから。

さらに「ヒトとチンパンジーの違いよりアフリカゾウとアジアゾウの違いの方が大きい」というのもビックリ仰天です。

さらにさらに、ゾウは体が大きいのですから、脳が大きいのは頷けますが、脳と体の大きさの比率からしても哺乳類の中でかなり大きい部類で、脳重量比はヒト・イルカについでチンパンジーゾウが同程度でトップ3にランクインするのだそうです。

以下本文より

さらにゾウの脳は生後成長する部分が大きいという特徴もあります。哺乳類の多くは生まれた時点ですでに脳が成長しきっていて、おとなの脳ご重量がさほど変わりません。一方ヒトは、生まれた時点での脳は大人の脳の約25パーセント程度しかありません。チンパンジーは50%程度、ゾウはその中間の33%程度という未熟な脳で誕生します。生後成長する割合が大きいということは、それだけ生まれてから獲得できる認知や行動の幅が大きいということを示します。

つまり、チンパンジーよりもゾウの方がより賢くなれる可能性があるわけですね。

遠い昔、発達心理学の講義で「ヒトの1年早産説」を学んだことを思い出しました。

鏡の自己認知や数の概念のテストなどもゾウはパスしているようですし、絵を描くゾウのことも別の本で読んだことがあります。

長い鼻を手のように器用に使って、ゾウの横顔にしか見えない絵を描く、横浜ズーラシア動物園シュリー

(ただし、シュリーは訓練画といって、始点と終点を与えられてそこへ向かって線を描くという手法のようで、自らの意思で「ゾウを描こう」と思って描いているわけではない。)

そして、まったくの自由画を描く同動物園のチャメリー

ヒトの子どもは最初はなぐりがきでも、だんだんに人や車や花をそれらしく描くようになりますが、チンパンジーは決してそうならないそうです。

ではゾウは?

それはこれからの研究にかかっているのかもしれませんね。

なんだかワクワクします。

ワクワクしつつも、さいごに一つ、心を痛めこともあります。

それは象牙のために密猟されているゾウたちのこと・・・。

密猟のことは知ってはいましたが、三味線のバチ象牙が使われている(そのほかに印鑑なども。つまり日本象牙の最大の輸入国)というのは、やはりショックです。

なんだか支離滅裂になってきそうなので、この辺でやめておきます。

ゾウに限らず、他の哺乳類や鳥類のコミュニケーションの方法がわかりつつある今、ヒトとしてのありかたも問われているのかもしれません。